製造業

『統合と再編の歴史から何を学ぶ?』製造業界再編M&A・2000年代の足跡

2000~2007年「液晶・携帯電話需要がピーク!」成長市場を巡るグローバル規模のシェア争いが加熱

 

日本の2000年代の船出は、ITバブルとその崩壊から始まりましたが、その後は新興国を中心とした外需主導での景気回復が加速しました。製造業においては特に、液晶・携帯電話需要のピークに乗じて、マーケットシェア拡大戦略のメインエンジンとしてM&Aが広く活用されることとなりました。

 

液晶業界

 

「世界の亀山モデル」という言葉をご存知の方も多いかと思いますが、液晶においてはシャープが全盛。富士通ディスプレイテクノロジーズを譲受する等して、液晶パネルからテレビまで一貫生産する戦略が成功し「液晶のシャープ」という強いブランドイメージを築きあげることができました。

 

パイオニアはNECからプラズマディスプレイ事業を3,700億円で買収し、生産規模拡大を追及。国内における業界2位に躍り出ました。

他にもセイコーエプソンと三洋電機は両者の液晶事業を統合し新会社を設立(世界4位のシェア)する等、多数のメーカーが液晶事業に参入し競合激化の様相を呈しました。

 

携帯電話業界

 

1990年代後半から爆発的に伸びた携帯電話の普及率は2000年代に90%を超え、携帯電話関連の事業も大手メーカーの統合・再編が一段と活発になりました。

 

ソフトバンクは2006年、携帯電話事業の英ボーダフォンを約1兆7,500億円で買収。

京セラは三洋電機から携帯電話事業を譲受、いわゆる「ガラケー」市場のキープレイヤーとしての存在感を高めました。

 

自動車業界

 

自動車産業は国内需要の飽和からグローバルマーケットでの存在感を高めるべく、海外企業の買収・出資拡大等に力を注ぎました。

ベアリング大手のNTNは、ドイツのIFA-Antriebstechnik GmbH社をM&Aで買収。日本発条、大同メタル等、他のサプライヤーもM&A(買収)を重ねることで海外展開を加速させました。

 

好景気に支えられた攻めのM&Aが隆盛を極める

「拡大競争」という言葉がぴったりなこの時期ですが、日本の大手企業の特徴としては「好景気」⇒「多角化」の路線をとることが多いと言われています。

後に巨額損失問題を招くこととなる東芝による米原子炉メーカー大手のウエスチングハウス(WH)の買収もこの時期(2006年)で、この後のリーマンショックを契機に各社、軌道修正を迫られることとなります。

 

2008年~2014年 「撤退か?協業か?」リーマンショックを乗り越えるための事業再編

 

世界を飲みこむリーマンショックにさらされた2008年9月以降は各社それまでの「競争路線」から「協業路線」もしくは「撤退(事業再編)」の選択を迫られることとなりました。

 

苦境を乗り越えるための守りのM&Aが活発に

三菱電機、ノキア・ジャパンの撤退、等、携帯端末メーカーが相次いで事業の見直しを進める中、NECとカシオ、日立は各々の事業を統合するという大きな動きに出ます。

 

一方で、東芝は携帯電話事業から撤退し、富士通に経営資源を引き継ぐ形で事業再編を進めることになりました。

 

半導体市場においても、NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが合併し、経営資源の最適化を通じて苦境を乗り越えるべくM&A(合併)という手段を行使しました。

 

総合電機メーカーの没落、「選択と集中」に向けて舵を取る

 

グローバル経済がリーマンショックからの立ち直りを図ると同時に、デジタル化が進展。韓国・台湾・中国等のメーカーの台頭により国内の電機メーカーは非常に苦しい価格競争にさらされることになります。

 

NECはPC事業を中国のレノボに売却、日立はテレビ生産から撤退、東芝は白物家電を中国企業に売却。液晶テレビで世界トップだったシャープは経営危機に陥り、2016年には台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となりました。

 

「脱・総合」を余議なくされた各社はおのおののポジションを確立するべく「選択と集中」を押し進めました。

 

富士通は企業や官公庁向けのITシステム構築等のソフトウェア路線にシフト、ソニーはゲーム・音楽等エンターテイメント関連、三菱電機については、ファクトリーオートメーションなど法人向け産業に経営資源を集中したのです。

 

2015~2018年「本業加速のためのM&A」

 

近年においては特に、大手電機メーカー各社において、自社のコアビジネスを見極め、それを磨くことでイノベーションを実現していく「本業革新」のためのM&Aが多く見られました。

 

単なる本業の選択と集中(リソースの再分配)ではなく、事業再編と並行して、異なる分野の技術や人材を新たに受け入れることでビジネスモデルのアップデートを進めています。

 

売却と買収の両輪でコア事業を磨き抜くリコーのM&A

 

たとえばリコーは、2017年に非中核ビジネスのアナログ半導体事業を手掛けるリコー電子デバイスを日清紡グループに売却。一部株式は保有しつづけた上で、当該領域において「他力」を活用して成長させていく選択をしました。

 

その後2018年、同社は本業である「印刷領域」への集中を掲げ、「立体物向けの印刷技術」に強みを持つエルエーシー、「衣料や床材の印刷技術」を得意とするカラ―ゲート の2社を買収しました。

 

各々の会社の技術優位性と自社の技術を連携させることで、あくまで本業である印刷領域における付加価値を高めていく戦略を掲げています。

 

「手を組むことでビジネスモデルを変化させる」アマダのM&A

 

プレス機メーカー大手のアマダは、プレスの付帯設備(搬送機等)の設計・製作を行うオリイメックを買収することで、「プレスメーカー」から「提案(企画・設計)型のビジネスモデル」へと変化を遂げました。

 

同業を買収することでシェアを拡大するのではなく、異なる事業領域同士で手を組むことでビジネスモデルそのものの変革を図っています。

 

自動車業界内での垂直統合を通じて顧客ニーズに応える

 

また現在は、旭化成や積水化成等の素材メーカーによる国内外の自動車部品メーカー(Tier1.2)の譲受が活発化しています。その理由としてはエンドユーザー(トヨタ・ホンダ等の自動車メーカー)により近いポジションをとることでより、企画・開発力を強化するためです。

 

部品メーカーにとっては、「軽量化」「安全性向上」等のテーマを実現していくための素材ベースでの研究・開発ノウハウを自社で蓄積していくことが可能となるのです。

 


業界再編部 太田 隼平

京都大学経済学部を卒業後、株式会社キーエンスでセールスエンジニアの経験を経て、日本M&Aセンターに入社。ITソフトウェア業界を専門とし、地域問わず中小中堅企業の事業承継及び成長戦略に関するコンサルティング業務に注力している。