住宅・不動産・設備工事業界

『「会社継がない」息子の決断で頭が真っ白に』不動産賃貸管理業界のM&A事例③

上位10社で管理戸数の合計が400万戸を突破

賃貸管理戸数ランキングで22年トップを走り続けている大東建託が、2016年12月に管理戸数100万戸の大台に達したことは記憶に新しいです。ですが約20年前は賃貸管理戸数上位10社の合計で約36万戸(1996年)とマーケット全体のシェアの2%にも至っていませんでした。

 

現在では上位10社の合計は400万戸を突破し、シェアは20%にまで迫り業界の再編の波が訪れています。私たち日本M&Aセンターはこのような再編が進む業種に対し専門チームを設けてM&Aの仲介をいたしております。

 

どのような会社が企業を譲り受け、譲渡をした経営者はどのようなことを考えていたのか、具体的な事例をご紹介。今回はご子息への事業承継を断念したものの無事に第三者へのM&Aに成功した案件です。

 

「会社継がない」息子の決断で頭が真っ白に

所在地:西日本

事業:年商10億円以上

事業内容:不動産開発・管理・仲介

株主:北山社長(仮名)

従業員:約20名

 

創業から約30年に渡り、地場に密着して不動産仲介管理や売買など、不動産に関わる総合的なサービスを展開する優良企業です。

 

北山社長が創業されたのは50歳を過ぎた頃でしたので、会社をいずれかのタイミングで一人息子へ承継することをお考えでした。ご子息も自身が会社を引き継ぐことを想定していたものの、事態はうまく進みませんでした。

 

息子から「今の仕事を辞められない」

ご子息は東京の大学へ進学。新卒として一部上場の大手総合建設会社へ勤務。「いずれは地元へ帰り父の仕事を継ぐのだろう」と漠然とイメージをしていたこともあり、大企業への就職は下積みをする期間と捉えていました。

 

ですが事業承継の相談を父である北山社長から持ち掛けられたとき、すでにご年齢は40歳。社内でも部下を持ち責任あるポジションに就いたタイミングであったため、承継を断ることにしたのです。

 

北山社長は事業承継についてその時までご子息に対し明確に意志を伝えていませんでした。「家業さえ継げば食うことには困らないだろう」とご子息が中途半端な気持ちで会社を継ぐことを考えてほしくなかったためです。

 

本件は親子の間で気持ちとタイミングのズレが生じてしまったケースと言えます。北山社長はご子息の決断に「頭が真っ白になった」とおっしゃられ、親族への承継を断念されました。

 

70歳から白紙で後継者探し

北山社長は70歳を迎え事業承継について全くの白紙から再スタートすることとなり、当社にご相談の運びとなりました。

 

我々は事業承継に関して年間約1,000社の譲渡相談をお受けいたしますが、そのうち8割は60代までにご相談いただいております。今回のご相談は決して早いとは言えませんが、お相手となる会社様の理想に関し入念にヒアリングをさせていただきました。

 

条件としては

①同業が希望だが同エリアは顔見知りも多く商売がしづらくなる為避けたい。
②会社の規模が大きすぎると企業風土を画一化されてしまいそうなので避けたい。
③とにかく若くエネルギーのある経営者に繋いでほしい。

このように3点を明確に条件としお相手探しを始めました。

 

この企業は不動産管理物件を1,000戸以上持ち、売上の6割を安定収益と出来ていた上に、自ら収益物件の開発販売まで行えている企業ですので、エリア外からの進出を図りたい企業からも魅力的な存在であり早い段階で譲り受けを希望される企業との交渉が始まりました。

 

不安はあって当たり前

 

北山社長が面談を選んだお相手は上記の条件を満たす創業5年の40代の経営者でした。ご子息と同年代ということもあり若い世代への承継が実現できると譲渡意欲は高まっていきました。

 

しかし若い会社ゆえになかなか融資をつけることができず、すぐに進むと思っていたM&Aに対し北山社長は徐々に不安が大きくなっていきます。

 

そんなときに他の企業が譲受企業として手を挙げることになりました。主たる事業は小売業ですが、別会社で不動産仲介会社の代理店と建設会社を運営しており、グループの第2の柱とすべくМ&Aでの強化を考えていました。

 

小売業はすでに西日本の同エリアに進出していたので、速やかに決断をすることとなりました。

 

M&Aで本業を加速

北山社長は最終的に後者の企業とM&Aをすることに決めました。

 

売り手は不動産開発・管理、買い手は賃貸仲介と、それぞれ得意な分野が異なっていました。

双方の得意分野が組み合わさり相乗作用(シナジー効果)を発揮させた事業拡大が可能であるというM&Aのメリットを、譲受企業の社長から何度も丁寧に説明してもらったことが決め手となりました。

 

また譲受企業はもともと小売業ですので、出店計画に関する新たな不動産情報ルートを加えることにより、本業を加速的に成長させておられます。

 

事業承継には常に選択肢を持って

M&Aが成立した後、北山社長はこう語りました。「親族承継しか考えていなかった頃に息子から継がないと言われたとき、ぶつけようのない感情に苦しんだ。

 

第三者への事業承継がうまくいった後でもそれは続いている。親族に承継をしたい人ほど早くから第三者への会社の譲渡の選択肢を持つべき。

 

息子にこそ第三者が会社をどう評価をしているのかを示す必要があった」。

 

「息子は自分の気持ちをわかってくれている」と考えている経営者は少なくありません。しかし家族だからといって、言わなくても気持ちが通じるわけではありません。

 

早くから家族と密にコミュニケーションをとり、選択肢を複数検討しておくことが円満な事業承継の秘訣といえるでしょう。

 


業界再編部 山田 紘己
慶應義塾大学商学部、米国コロラド大学ビジネススクールを経て日本M&Aセンター入社。
業界特化事業部の立ち上げに参画。以来、業界再編業種を中心に、幅広い業界でM&Aを支援。現在は、住宅・不動産業界チームに所属し、同業界に係る数多くのM&Aに取り組む。