M&A全般IT・ソフトウェア

【銀行→投資会社→IT企業】50年の経験とM&A-エヌヴイ・コミュニケーションズ相談役・熊田恒雄による連載コラム③-

第3回:IT事業の経営戦略とM&A、そして第四次産業革命

IT業界の黎明期

1995年のWindows95はパソコンとネットワークによる無限の可能性が感じられ、マイクロソフトを夢見た多くのIT起業家、投資家が飛びつき、ITバブルとなって2000年ごろにピークとなった。

 

日本でも、実態の伴わない多くのITビジネスが崩壊の道をたどったが、パソコンとインターネットによるITの技術革新はまぎれもなく本物であり、米国のマイクロソフト、アップル、グーグル、アマゾンなどの企業は着実に生き残り、その後の産業を牽引した。

 

日本でもソフトバンク、楽天、サイバーエージェントなどがインターネット企業として生き抜き、成長発展し新たな産業の形成が期待された。

 

投資会社・日本アジア投資としてもベンチャーキャピタルとして、サイバーエージェント、アリババなど多くのIT投資に成功する一方、再生投資事業としてIT業界の将来のSES需要を見込みエヌヴイコミュニケーションズへの投資を実行した。

 

リーマンショックによる打撃

 

投資間もなく、リーマンショックによりシステム開発マーケットは急落、多くのSES事業者と同様、エヌヴイも新入社員を含む13人が一年以上にわたり派遣先を確保できず、急速に資金繰りが悪化した。

 

投資会社も上場マーケットの縮小による資金難にあり、支援を断念し、資金ショートによるデフォルト直前にA社の買収オファーを受けて、短期間のうちにM&Aが成立した。

 

投資会社による資本参加は、IPOかM&Aによるイグジットを目的に事業の整理、資産の整理、財務諸表の整理がなされており、買収の検討や買収後のPMIを行いやすいというメリットがある。

 

IT業界の経営戦略とM&A

 

買収後、引き続きエヌヴイの経営にあたり、IT業界における多くの事業を見分し多くのM&A事例を見てきた立場として、IT業界のM&Aの目的や失敗しないための対処策等をまとめたい。

 

IT業界のM&Aの目的

 

人材確保

システム開発マーケットは活況が続いておりSE人材不足が深刻化している一方で、高度成長期に創業したシステム開発会社の経営者は高齢となり、事業承継に困っているケースは多い。買収による人材確保と事業承継問題の解決は最もニーズが高く、多くの事例がある。

 

事業分野拡大

自社の事業分野にない事業領域を買収により確保し、SE、顧客、経営人材を譲り受けることにより、業務系システム開発、組み込み系システム開発、データ分析、サーバー事業、ゲーム開発など、新規分野への展開を実現。

 

請負事業顧客口座を確保するための買収(口座開設にかける時間を買う)

大手SIやユーザー企業と、直取引での請負事業を拡大することを目的とし、対象顧客へ買手のサービスを提供し、クロスセル、アップセルを実現。

 

財務上のメリット

M&Aに伴い、経営の統合、管理部門の統合により間接費用の削減が可能に。
財務上安定した企業のグループになることで銀行の個人保証の解除も同時に実現。

 

オフショア、ニアショア買収

開発費用軽減を目的に、オフショア、ニアショア開発会社の買収。

 

開発部隊の内製化

メーカーのIoT事業展開の為、システム開発をアウトソースするのではなく、自社内に開発部隊を取り込み、独自開発を推進。

 

失敗しないための対処策

 

買収により人材の流出を防ぐ

これを防ぐには、経営、人事キーパーソンとの密な連携、信頼確保が最重要。

 

文化の違いを融合する

買われる側のプライド、給与体系の差、退職給与引き当ての有無、 福利厚生の差等を、時間をかけて慎重に調整して行く必要がある。

 

買収後の品質管理保証、クレームの発生、開発後のバグ発生等を見極める

未払い労働債務の顕在化、簿外債務の顕在化、 偽装請負の存在、係争案件の顕在化等、十分な監査が必要。

 

顧客との信頼関係の持続

買収後、顧客への説明を十分に行うこと、あらかじめ対顧客のキーパーソンを確保(創業者、オーナーを会長、顧問などで残す)することが重要。

 

発行株式の100%を確保し、不明株主をなくす

一部株主不明の場合、公示催告、除権判決の手続きを要す。

 

次世代経営者の育成とM&A

システム開発事業の経営を安定して継続するためには、多くの開発案件と、開発委託先の確保、エンジニアの確保、事業分野の多角化などが必要となり、これら経営課題を解決する手段として、M&Aが有効である。

 

一方これら中長期的経営戦略においては、経営者をサポートし、事業経営を主体的に考える経営陣の育成が不可欠である。

 

M&Aを検討するに当たり、経営陣、あるいは経営陣候補者によるPMIチームを編成することで、経営感覚を磨き、経営責任を持った経営戦力を学ぶことができ、次世代経営者を育成することにも繋がるという副次的効果もある。

 

PMIチームにはM&A対象企業の財務内容を分析、買収資金の確保を検討するために財務責任者、事業内容の質と将来性などを分析し、技術部門責任者、中長期経営戦略上の適合性を分析する必要があるが、そのためには経営企画責任者を含む、少数のチーム編成が望ましい。(対象企業の秘密保持の為にも少数に限定する必要がある)

 

第4次産業革命

半導体技術革新によってメモリー容量が1.5年で倍の速度で拡大することをインテルの創立者の一人、ゴードンムーアの名前から「ムーアの法則」というが、一方情報通信量は六か月で倍になるという「ギルダーの法則」がある。

 

これはインターネットの普及がもたらす情報量の拡大の速さを示しており、さらに5Gの実用化によって、現在の通信量の100倍の速度でデータがやり取りされる時代が来ている。

 

18世紀の蒸気機関による第一次産業革命に続き、石油エネルギーと自動車業界を代表する大量生産をもたらした第二次産業革命、世界大戦を挟んでエレクトロニクスとコンピューターによる第三次産業革命の後、現在インターネットとAIによる情報通信技術のもたらす第四次産業革命の中にある。

インターネットによる交信は、人と人をつなぐSNSに対し、物と物、あらゆる物事をつなぐIoTの世界における交信量は膨大なボリュームとなる。

 

こうして蓄積されたデータ量はビッグデータとして拡大を続け、このデータを人工知能により分析、解析することで新しいビジネスが生まれ、経済成長に結び付く。この世界が第四次産業革命である。

 

SNSにより人の行動から発信されるデータを、プラットフォームに乗せてビジネスの開発、拡大を果たした米国のGAFAに対し、製造立国、ドイツの首相メルケル(物理学者)は強い危機感を持ち、SNSの何十倍、何百倍の規模の製造現場の情報をつなぎ、新しいビジネス展開を狙い、普及浸透を推し進めているのがIoTである。

 

ドイツのシーメンスやボッシュはすでに、メーカーからIoTソフト開発の企業として成長を始めている。元々、日本もドイツと同様の製造立国であり、製造現場の膨大な情報量をビッグデータとして蓄積し、AIで分析することにより、新ビジネスの成長が期待される。

 

これまで60社以上のM&A戦略によって成長を続ける日本電産の永守会長は、この製造業のデジタル化を明確に意識しており、今後の展開が期待される。

 

ドイツのボッシュと同様、自動車のデジタル化を担うデンソーはこのIoTを明確に意識し、日本M&Aセンターの仲介により、東芝情報システムへの資本参加を実現した。

 

日本経済は平成30年の間、バブルの後遺症に伴う停滞を続けており、このままでは第四次産業革命に乗り遅れ、米国のGAFA、中国のBATに大きく取り残される恐れもある。

 

日本の経営者のソフトウェアに対する理解、認識は大きく遅れているが、製造立国として、IoTで先進できるという優位性を活かし、成長に結び付けてもらいたい。

 

IT企業としても、顧客企業の成長戦略にIT技術を生かすための提案、ITコンサルティングが重要な役割を担っているものと思う。

 

令和の新時代の経営に、事業のITソリューションと、M&Aによる成長戦略が不可欠と思われる。

 

執筆者紹介 エヌヴイ・コミュニケーションズ株式会社 相談役 熊田恒雄
1947年 東京生
1971年 横浜市立大学商学部卒
1971年 東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行   本店営業部、新橋支店、ヒューストン、ロサンジェルス融資担当
1993年 ダラス支店長、ヒューストン支店長
1997年 理事横浜支店長
2000年 日本アジア投資会社常務、専務を経て2008年退任
2008年 エヌヴイコミュニケーションズ株式会社社長、会長を経て現相談役