運送業

運送・物流業界再編M&Aの歴史

はじめに

近年、増え続ける輸送量と深刻な人手不足、加えて労働規制の強化により、運送・物流業界は激動の時代を迎えています。業界が大きく動こうとしているこのタイミングで、運送業界のM&Aの歴史と現在の動向についてご紹介したいと思います。

 

運送業界の歴史と最古のM&A

 

馬車から鉄道へ

 

江戸時代以前の日本では、幹線輸送は馬車輸送が担っていました。そして、馬車輸送業を開業しようとすると、馬や馬車の調達、さらには幹線上の中継地点である宿駅の維持運営が必要であったため、相当の資力と信用がなければ開業ができない業種でした。資力や信用による参入障壁が高い業種であったといえます。

 

しかし、明治以降、鉄道網が整備され、幹線輸送の主役が馬車から鉄道へ移り変わり、それに伴い運送業者の役割も変化をしていきました。主要業務は「馬車輸送およびそれに付随する集配業務」から「鉄道貨物取り扱い」に質的転換を果たしました。

 

鉄道貨物取り扱い業とは、鉄道貨物輸送の両端の貨物取扱駅において、荷主と鉄道の間に介在し、鉄道輸送を補完し、発荷主戸口から着荷主戸口までの輸送を遂行する事業をさします。

 

具体的には、荷主・貨物駅間での貨物の集貨・配達、貨車への積み卸しなどの物理的作業や鉄道貨物の取扱業務(事務的作業)から成り立っていました。

 

鉄道貨物取扱業は、馬車輸送をしていた時代と比べ、わずかな人間とハカリがあれば簡単に開業できる点が特徴的でした。そのため、小規模業者が乱立し、やがて鉄道輸送の効率と円滑な取引を阻害するようになっていました。

 

政府主導による集約合同

 

このような混乱した事態を解消するため、大正15年6月、鉄道省は小運送業界の集約合同に乗り出しました。具体的には、中央においては大規模統括会社の合同を行うことで事業者数を抑制しました。

 

また地方では、各駅において、それまで同一の駅で過当競争を繰り広げてきた運送店同志が合同して、1駅1店の合同運送会社を設立していきました。これら一連の官製合併が、運送業界の最古のM&Aといえるのではないでしょうか。

 

ちなみにこのときの経過を踏んで誕生した合同運送会社が、のちに日本通運統合政策を経て誕生した日本通運です。こちらのM&Aも官主導で行われた点が特徴的です。

 

近年の運送・物流業界のM&Aの動向

 

メーカーの物流部門切り離し

 

従来、食品や機械などの荷主となるメーカーでは、自社で物流部門や物流専門の子会社を保有し、さまざまな物流サービスを展開するケースが多かったです。

 

しかし、自社製品をメインに仕事をしていると、物流子会社の成長には限界があるため、メーカーから切り離して物流専門企業へ売却するケースが近年増えています。

 

近年ですと、2018年にSBSホールディングス株式会社が株式会社リコーの子会社を譲り受けた事例や、株式会社ハマキョウレックスが協和発酵キリンの物流子会社を譲り受けた事例が記憶に新しいです。

 

物流専門企業のグループに入れば、荷主が増加し経営の自由度が高まる、配送拠点の増加によるメリットを享受できるといったことが期待できます。さらには、ドライバーに様々な仕事を適材適所で割り当てられるため、ドライバーの定着率の上昇にも寄与しています。

 

業界全体で収益拡大、ドライバー不足が叫ばれる中、競争力を高める有効な選択肢として捉えられているといえるのではないでしょうか。

 

倉庫業が絡むM&A

 

運送業界で3PLが近年注目を浴びていますが、大手企業による倉庫業の買収も相次いでいます。2017年に住友倉庫株式会社が同業の株式会社若洲を買収した事例などは耳目を集めました。

 

また今年では、積極的に物流施設事業を展開する大和ハウス工業が、生活必需品の少量・多品種・多頻度配送を確立している同業の若松梱包運輸倉庫を買収しました。

 

倉庫業同士のM&Aだけでなく、トラック運送業を営む会社が倉庫業を譲受けることで、自社での配送網の効率化を図っています。

 

多くの企業が限られたパイを奪い合う中、経営の効率化に力を注いでおり、効率化に成功している企業は荷主からの要望に対して融通を利かせやすく、さらなる受注につながっているといえます。

 

海外展開

 

運送業界の企業が成長市場を求めて海外へ事業展開する例が増えてきました。そして、海外進出の手段の1つとして、M&Aを活用する企業が出てきています。

 

2019年だけでも、内外トランスラインが韓国海運大手である韓進海運の子会社で倉庫業を営む会社を買収した事例、両備ホールディングスがベトナムの物流企業であるASLに資本参加した事例、上組がカンボジアで国際港湾を運営するシハヌークビル港湾公社への出資比率を高めた事例など、枚挙にいとまがありません。

 

国内市場の縮小とグローバル経済の更なる加速は現時点での長期トレンドであることから、日本企業による海外進出とM&Aの活用の流れはしばらく止まらないでしょう。

 


日本M&Aセンター 業界再編部 一色 翔太
早稲田大学法学部、同法科大学院卒業。
2014年、司法試験合格。カンボジアの日系企業及び日系法律事務所での半年間のインターンを経て、司法修習(69期)を修了。日本M&Aセンターに入社。住宅・不動産・設備工事業界及び物流業界担当のM&Aコンサルタントとして、全国の中堅・中小企業のM&A支援に取り組んでいる。